InfoDeliverスペシャル鼎談企画「保険業界のAI革命!業務特化型AIがもたらす保険金算定の未来」 part1
公開日:2024.12.26
目次
鼎談の背景と目的
InfoDeliverは、業務特化型AIカンパニーとしてAIを活用し、さまざまな業務領域での効率化と課題解決を目指しています。本鼎談は、業務特化型AIの可能性とその重要性を探求する場として、「AI火災保険金算定システム 」を開発した当社副社長の千里が、北海道大学の川村秀憲教授と香港理工大学の王准教授を招き、AI技術の現状と将来、そして業務特化型AIがもたらす可能性について議論を交わしました。
鼎談者のご紹介
北海道大学 教授
川村 秀憲 氏
北海道大学においてAI研究と産業応用を結びつける研究を数多く手がけ、業界と学術界を橋渡しする第一人者として国内外で高く評価されています。特に、AI技術を活用したデータ解析や人間と共生する技術の開発に注力し、理論研究だけでなく現場の課題を解決する具体的な応用にも取り組んできました。また、北大発のベンチャー「共和研究所」を通じて、多様な業界と連携し、現場視点を取り入れた研究活動を展開しています。川村教授の幅広い視点と実績は、今回の鼎談テーマである「業務特化型AI」に深い洞察を与えることが期待されています。
香港理工大学 准教授
王 啓新 氏
InfoDeliverのPDFエンジン開発に携わった長年のパートナーであり、AIプログラムの安全性をチェックする世界的な研究者としても知られています。AI活用が広がる中、その安全性や持続性に対する監視や検証はますます重要になっています。その専門知識は、業務特化型AIの信頼性を高めるうえで不可欠なものです。
InfoDeliver取締役副社長 CTO
千里 智傑 氏
東京工業大学を卒業後、大手メーカーにて画像技術の研究に従事。その後、InfoDeliverの設立に参画し、1999年にPDFを自動的に生成する『PDFエンジン』を世界に先駆けて開発。2016年には東京都健康長寿医療センターの大渕修一先生の監修のもと、認知症予防アルゴリズムを搭載した認知症予防アプリを太陽生命様に採用いただきました。2021年に三井住友海上火災保険様の協力を得て「AI火災保険金算定システム」の開発を開始。2023年6月には三井住友海上火災保険様への提供を実現し、さらに2024年11月にはあいおいニッセイ同和損害保険株式会社様への提供も開始しするなど、幅広い分野で業務特化型AIのシステム開発を主導してきました。
InfoDeliverは、柔軟な発想を持つ若手人材がAI分野で重要な役割を果たすと考えています。そのため、経験やスキルにとらわれず、意欲的な学生たちがAIの世界に飛び込める環境を積極的に整えています。学生が当社内のエンジニアと共に実践的なプロジェクトに取り組むことで、専門スキルを身につけるだけでなく、健全で持続可能なAI開発を担う人材へと成長できる仕組みを提供しています。当社は、こうした取り組みを通じて、世界で活躍できるエンジニアの育成とAIの未来を築くためのシフトを推進しています。
鼎談のテーマは「業務特化型AIの未来」。それぞれ分野で活躍する3名が、AIの現状と未来について深掘りし、業務特化型AIの可能性を語ります。
AI技術の進化は未来の保険・金融業界にどのような変革をもたらすのか?
鼎談の模様をpart1とpart2に分けてご紹介します。
保険金算定の業務現場が直面している4つの課題
千里:今回は、昨年リリースしたInfoDeliverの「AI火災保険金算定システム 」についてご紹介いたします。昨年に続いて、今年は新たに別の保険会社にも採用され、さらに2社から商談のご要望をいただいております。
本日は、弊社の取り組みを共有させていただいたうえで、川村教授と王准教授のお二人からご意見やアドバイスを頂戴できれば幸いです。
まず、このシステムは火災保険の請求算定業務の効率化を目的として開発されたものです。保険算定に関連する主な問題を簡単にご説明いたします。
保険金算定時に直面する問題は主に4つあります。
千里:1つ目は時期の問題です。日本では、特に夏季に災害が発生すると、保険金の請求が集中する傾向があります。そのため、保険会社は保険契約者への迅速な保険金支払いを実現するために、業務効率の向上が求められていると伺いました。
2つ目はコストの問題です。保険金請求が一度に集中しても、迅速かつ正確に処理する必要があります。専門家や現場の担当者には大きな負担がかかっており、煩雑化する業務の効率をさらに向上させ、コストパフォーマンスを改善することが重要です。
また、保険算定には住宅構造や建材の価格に関する知識が必要です。これらは専門的な分野であるため、一般の方が対応するのは難しい内容です。
そして、コストの問題に加えて、品質の問題も同時に発生します。この課題を解決するため、弊社では3年前からAIの活用を模索してきました。
作業時間を大幅に短縮したInfoDeliverの「AI火災保険金算定システム」
千里:こちらが通常の火災保険金算定のフローです。
千里:例えば、台風で家が損壊した場合、修繕業者に連絡し、被害状況の写真を撮影、修理費用を確認する必要があります。まず最初に行うべきは事故ファイルの作成です。その後、人が詳細情報を入力し、項目の調整を行います。
この段階では、専門家が写真を確認し、家の構造をチェックして、請求書の内容と金額を照合します。多くの場合、請求内容は現状と一致しますが、不要な項目が含まれていることもあるため、慎重な確認が求められます。この確認作業には時間がかかり、最終的には報告書の作成が必要になります。全体的に手間と時間がかかるプロセスです。
千里:一方、こちらが弊社の「AI火災保険金算定システム」を利用した場合のフローです。従来の手作業とは大きく異なり、作業時間を大幅に短縮できます。例えば、事故ファイルの作成では、資料をスキャンしてPDFファイルをシステムにアップロードするだけで完了します。フォーマットを統一し、支払いプロセスを集約することが可能です。
千里:システムは作業の大部分を自動化しており、通常80~90%のタスクを効率的に処理します。残りの10%は人による最終確認と調整が必要ですが、それ以外の部分はスムーズに進みます。このプロセスの最後には請求書が作成され、お客様への報告が完了します。
シンプルなインターフェースで操作可能ですので、後ほどサンプルをご覧いただければと思います。
情報の統一化と分類で請求書処理を簡素化
川村教授:事故ファイルにはどんな情報が含まれているのですか?写真ですか?
千里:主に写真と修繕業者からの請求書です。
王准教授:入力する際のファイルには、損害額の評価書やガイドブックが含まれるのですか?それとも、ガイドブックは出力側のものですか?バッチ処理のヘッダードキュメントも出力ですか?
※画面イメージ
千里:こちらが実際の入力情報のサンプルです。請求書は修繕業者から提供されたもので、業者や家の所有者が撮影した写真も含まれています。そして、こちらが出力結果の例です。修理項目名が統一されていない場合でも、同じ項目を異なる表現で記載される問題を解決できます。
全ての情報を統一された形式で整理し、簡単に要約できるようになっています。基本的な仕組みですが、すべての費用にラベルが付けられており、カテゴリーごとに分類されています。これにより、各請求書を個別に比較する手間が大幅に削減されます。
千里:こちらが全体のフローです。ご覧の通り、非常に簡単で直感的な作業プロセスとなっています。
情報の統一化と分類で請求書処理を簡素化
千里:では、この「AI火災保険金算定システム」で使用されている技術や方法についてご説明します。このシステム開発を開始したのは3年前のことですが、当時は現在のようなAI技術とは異なり、このようなフローを実現するのは非常に困難でした。
一般の方には少しわかりづらい部分もあるかと思いますが、このシステムでは請求書の構造を正確に理解する必要があります。当時、その技術は存在していたものの、現在ほど簡単には使えませんでした。近年になり、技術が格段に向上しています。
千里:このシステムの第一歩は、請求書の構造を正確に把握することです。OCR技術を活用し、建築家屋に関する一般的な知識を組み込むことで、言葉や表現を解析し、家のどの部分に関する情報なのかを特定しています。
また、地域ごとに異なる修理項目の価格情報を収集したデータベースを活用しています。日本では地域差が大きいため、各地域の価格を正確に把握することが重要です。
このデータを基に、請求書を統一された形式で作成します。請求書には修理項目の番号、単価、金額などが記載されており、正確な情報を基に作成すれば、作業は非常に効率的になります。
修理項目の名前や表現が異なる場合もありますが、家の修理項目は限られているため、全ての表現を集約し、統一することで対応可能です。この統一化により、異なる表現の項目でも同じものとして正確に処理できます。
保険会社では、壊れた物に対してのみ支払いを行うため、見落としや追加の修理項目には支払いが発生しません。そのため、項目を正確に分類し、適切に処理することが重要です。
どんな形式の請求書でも統一された形式に変換するプロセスは非常に詳細かつ複雑です。しかし、このシステムでは、複数の請求書を1つのPDFファイルとして処理することができます。PDFを処理した後、請求内容に基づいて出力結果を生成します。
千里:こちらがAIシステムのインターフェースです。非常にシンプルで使いやすい設計です。
王准教授:すべてのPDFをここにドラッグ&ドロップすれば、自動で集約されるということですね?
千里:はい、その通りです。PDFファイルを全てアップロードすると、システムが自動処理し、結果をExcel形式でダウンロードできます。作業はこれだけです。
保険金算定が1~2分で完了
王准教授:基本的には、これはAIを使った集約ツールですね。動画やテキストの要約ツールに似ていますが、こちらは請求書を集約するものになるわけですね。
千里: そのとおりです。ただし、集約だけではなく、算定も行います。保険会社が支払うべき項目と、支払いの可能性が低い項目を判断し、そのプロセスを同じパターンで進めます。従来は専門家が画像を1枚ずつ確認して処理を行っていましたが、今ではこれが1~2分で完了するようになっています。
王准教授:それは大幅な時間短縮になりますね。以前は、すべて人力で集約しなければならなかったので。
千里: そのとおりです。
川村教授:精度や自動算定の結果は、人間が行った場合と比較してどうですか?
千里: 現在のバージョンでは、すべてのPDFファイルを正確に読み取ることはまだできないため、精度は約85%から86%ほどです。しかし、これは第一歩として非常に意義のある成果だと考えています。今後、表の構造をさらに正確に認識できるようになれば、精度はさらに向上するでしょう。
川村教授:請求書画像を認識する上で最も難しい点は何ですか?
千里:いくつかの課題がありますが、主な問題は、構造を認識してOCRを実行する通常のアプローチでミスが発生する点です。その後AIを活用しますが、一見良好な結果が得られても、詳細を確認するといくつかの誤りが見つかることがあります。
例えば、アイテムAが100円、アイテムBが300円の場合、AIがこれらの金額を逆に認識してしまうことがあります。AIも時折誤った判断をすることがあります。
王准教授:これについては、ボックスの位置を正確に特定できれば、その位置に基づいて100%正しい判断が可能になるのではないでしょうか。そのためには、パターン認識に頼るのではなく、ロジックに基づいたシステムが必要かもしれません。
つまり、AIの結果をフィルタリングするシステムを構築することで、精度をさらに高められると考えます。
千里: そのとおりです。実際、AIと通常のアプローチを組み合わせて結果を導き出し、それぞれの優位性や課題を抽出して検討しました。しかし、それでもいくつかの問題が残りました。
通常のアプローチでは、80%から90%の安定した正確な結果を得ることができます。一方で、AIは時折非常に優れた結果を出し、100%に近い精度を達成することもあります。ただし、反対に、非常に悪い結果を出す場合もあるのが現状です。
鼎談者プロフィール
北海道大学 教授
川村 秀憲
(カワムラ ヒデノリ)
北海道大学大学院情報科学研究院 情報理工学部門複合情報工学分野 調和系工学研究室 教授。AI研究と産業応用、ロボティクス、ディープラーニングの分野で活躍し、学術と産業をつなぐプロジェクトを多数主導。北海道大学で博士号を取得後、准教授を経て現職に就任。AIを用いたデータ解析や人間との共生を目指した技術開発に注力。著書には『AI知能が俳句を詠む』『10年後のハローワーク』『ChatGPTの先に待っている世界』など多数あり、国内外で評価されている。
香港理工大学 准教授
王 啓新 / Qixin Wan
(ワン・チーシン)
香港理工大学准教授。サイバーフィジカルシステム(CPS)やリアルタイムネットワーキング、ワイヤレスセンサーネットワークを専門とし、産業制御やヘルスケアなど幅広い分野に影響を与える実用的な応用に取り組む。清華大学でコンピューターサイエンスの学士・修士号を、イリノイ大学で博士号を取得。特にQoSやリアルタイム通信の分野で顕著な研究成果を挙げる。
InfoDeliver取締役副社長 CTO
千里 智傑
(センリ トモタカ)
InfoDeliver 取締役副社長 CTO。東京工業大学卒業後、大手メーカーで画像技術を研究。その後、InfoDeliver設立に参画し、PDFエンジンや認知症予防アプリ、AI保険金算定システムなど幅広いシステム開発を手掛ける。